理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

Chapter 1

Hope(希望)

世間ではまだまだアルコール依存症は「アル中」という言葉で知られていると思う 「アル中」・・と聞くと、どんなイメージがあるだろうか? 手を震わせながら一日中飲んでいる。好きで飲んでいる。飲み方をコントロールしようとしない。だらしない人間。最低…

自堕落な日々

解雇された時、夫は正直ホッとしていた。もうあのストレスから解放され、アルコールを飲む必要もなくなるからだ。 私は彼に、「今まで一生懸命に働いてくれてどうもありがとう。」と戸惑いながらも感謝をした。嬉しい感謝ではない、悲しみを伴った感謝である…

夫のこと

夫は有能なITコンサルタントだった。娘が生まれる直前から11年間、家族のために頑張って働いてくれた。難しい性格ではあるのだが、職場での彼への評価は高かった。体面を非常に気にする彼は人と争うことなく、黙々と仕事に打ち込み、みんなからの厚い信…

葛藤

夫は意志が弱いわけではない。自分がアルコール依存症であることをちゃんと自覚し、本気で辞めたいと思っている。それなのに飲んでしまうのは、これが病気だからである。 アルコールの恐ろしさは、一般にはあまり知られていないと思うが、実は、ヘロイン等の…

優等生妻と不良亭主

私達夫婦は、性格が真逆である。Opposites attract(正反対同志は惹かれ合う)という言葉があるが、こんなに違う性格の者同士が長い間一緒にいて、大きな喧嘩をしないわけがない。 元々温厚で人との争いを好まない私ではあるが、長年の夫婦生活の中で、私は…

義理の兄と妹

夫の兄は精神科医だ。でもだからと言って夫の病の助けになったことなど一度もない。むしろ、失望しかない。違う州に住む義兄は年に数回家に来るのだが、でもだからといって積極的にアルコール問題について夫に問いただすわけでもない。アメリカ人が大好きな…

義理の母と父

義母と義父は夫が高校生の時に別居をし、それから離婚をしている。義母は離婚原因を義父の浮気のせいだと言い、義父は離婚原因を義母の金銭問題のせいだと言う。義父は当時の浮気相手と現在再婚をしているのだが、この彼らの三角関係は、何十年経った今でも…

無関心

夫の周りには、夫を叱ってくれる人がいない。アメリカ人の国民性なのだろうが、個人的な問題に進んで関わろうとしないのだ。夫の友人、親戚、夫の兄妹、みんな夫のアルコール問題を、まるで存在しないかのように無視して普通にしている。 唯一夫の両親だけが…

本当の願い

夫が死んでくれたら、やっとこの苦しみから解放されるんだろうなと、絶望しながら節々でふと思ってみるものの、私の本当の願いはそんなことではない。ただ、世の中の普通の家庭のように、普通の暮らしがしたいだけだ。 夫が素直に専門家の助けを得て回復に向…

アルコール依存症の家族

アルコール依存症との生活は壮絶である。この病気の人間が家族の中にいると、本人だけではなく、周りの人間までもが病気になる。アルコール依存症は病気なんだと分かってはいても、理屈の通じないアルコール依存症者と一緒に暮らすのは、非常に苦痛を伴うも…

911(警察)

私は夫から精神的な言葉の暴力で苦しめられる反面、肉体的な暴力は実は一度も受けたことはない。酔っていても、である。また夫は、酔っていても、ものを投げつけたり破壊するようなこともしない。これは不幸中の幸いであり、もし夫が暴力的でものを破壊する…

先が見えない苦しみ

夫がアルコール依存症だという事実はとても辛い。でも、もう、受け入れました。専門家の力を借り、謙虚に、頑張って回復する努力をしているならしっかりと応援したい。でも、夫は専門家の力を借りようとしない。それが私の今の大きなストレスになっている。 …

支配されるもの

夫の病気のせいで奪われるのは、私の仕事の時間だけではない。たまの息抜きの友人達との約束でさえも、全ては夫の体調に左右される。「娘を夫と二人で家に残して大丈夫だろうか・・・?」 友人との約束当日にドタキャンをして友人に迷惑をかけたくない。当日…

嘘のいいわけ

夫の病気のせいで私の時間が奪われても、周りに本当のことは言えなかった。私が仕事中、何度か夫の離脱症状で会社を休んだり早退しなければならなかったが、会社には仕方なく嘘の理由を言うしかなかった。「夫がアルコールの離脱症状で・・・・」というより…

甘い香り

それは突然やって来る。夫からかすかに漂うウォッカの甘い香り、私はすぐに気づいてしまう。夫の表情、歩き方、話し方、飲むとそれらに異変が起こる。それでも飲んでないと嘘を突き通す夫に、私は苛立ちを覚える。嘘をつかれる時ほどつらいことはない。飲ん…

断酒

夫の離脱症状のひと通りのドラマが終わると、しばし平穏な日々が訪れる。再び連続飲酒が始まる、嵐の前の静けさだ。再飲酒したことを反省し、私に謝り、時には涙を流し、もう二度と飲まないと誓う。 この時の夫は、義父の仕事の手伝い、家のリフォーム、庭の…

無意味な優しさ

離脱症状が出ると、初期の頃は心配で夫に付き添っていたものだが、今ではここぞとばかりに私は夫を無視している。死なないように最低限の注意は払い、あとは放置。泥酔時にあれだけ苦しめられ、離脱症状の時に助けを求められても、私にも感情があるから、夫…

離脱症状

初めて離脱症状が現れたのは、もう8年ぐらい前だろうか。原因不明の発作と震え、けいれん、それが4カ月に一度ぐらいの間隔で起きていた。初めての離脱症状から2年ほど経った時に、夫は初めてこう言った。「原因はアルコールだと思う。」 離脱症状が起きる…

探し物

酔った夫は、いつも探している。自分が隠したウォッカのボトルの在り処を。自分で隠したくせに、自分で隠したこと、どこに隠したかを一切覚えていない。「…どこだよ?どこに隠したんだよ?お前が隠したことは分かってる!嘘つくな!これ以上問題を大きくした…

精神的な暴力

夫は酔うと、私のことを"BITCH(あばずれ)"、 "FxxKING RETARD"(ファッ〇ング知的障害者)と呼ぶ。その他、思いつく限りのありとあらゆる汚い言葉で罵声を浴びせ、"TWO NUKES WERE NOT ENOUGH!!!(原爆を2回落とされただけでは足りなかったんだろう!)"…

犠牲になる時間

アルコール依存症の夫と一緒に暮らす中で、犠牲になる時間は2種類ある。一つは泥酔時、そしてもう一つは離脱症状の時である。どちらも夫の迷惑極まりない行為に、私達は苦しめられる。 酔っ払うと理不尽な絡まれ方をされ、それにまともに対応しているとこち…

ウォッカ

夫はウォッカを好んで飲む。1.75リットルの大瓶を、二日で飲み干してしまう。一旦お酒が入ると、私達の生活のすべてが壊される。数々の暴言を吐かれ、無意味に絡んで来られ、就寝の邪魔をされ、夜中に何度も起こされる。一晩中寝られないことは何度もあった…

人格障害

夫はもともと、非常に気難しい人だ。頭はいいが、友達は少なく、人を見下すところがある。プライドが高く、精神年齢が幼い。自己中心的、かつ攻撃的。優しいわけでもなく、よくこんな人間との結婚生活が続いたものだ。 夫はある種の人格障害者だと思う。こん…

ねがい

アルコール依存症は、脳の病気である。一度飲むと、自分の意志に関係なく飲酒のコントロールが出来なくなり、離脱症状に陥るまで連続飲酒をする。 病気と言っても、普通の病気とは全く違う。こんなことを書くのは不謹慎かも知れないが、どんなに重い病でも、…