義理の継母とその元パートナー - 理不尽な病　～アルコール依存症の夫と暮らして～

私に強く離婚を勧めてくるのは、義父の再婚相手、義理の継母である。

彼女は、義父とは不倫を経て、２５年程交際した後に、５年前に義父と結婚している。

彼女は初婚ではあるが、事実婚だったパートナーとの間に娘をもうけている。

このパートナーは、アルコール依存症だったかどうかは分からないが、相当な酒飲みだったらしい。

ただ、私の夫より症状は軽く、目立った離脱症状はなかったらしいから、ただの酒乱オヤジだったのだろう。

義理の継母はこの元パートナーと、アルコールにまつわる数々の修羅場をくぐり抜けてきたらしい。

今はこの元パートナーも何かの病気で亡くなっているのだが、事実婚だった３０年程前、今ほどカップル間の暴力を伴った喧嘩が大きな罪に問われなかった時代、彼女はこの酔っぱらったパートナーと物の投げ合い、壊し合い、叩き合い等で、何度も警察を呼んでいる。

私達夫婦の喧嘩に物の破壊や暴力はなく、また、私の夫は暴言こそあれど、アルコール依存症でありながら、幸いにも、酔っぱらっても暴れることはないのだが、彼女達は、私達以上にひどいやり取りを繰り広げていたようだ。

ただ、昔の時代、そんな喧嘩ごときで警察に逮捕されるようなことはなかったようだ。

彼女は彼女の娘が１２歳になった頃、このパートナーに見切りをつけ、娘を連れて家を出たらしい。そして彼女は、そのことをとても誇りに思っている。

だからなのだろう、彼女は私に会うたびに、夫と別れるように勧めてくる。

「離婚しなくてもいい、別居でもいいじゃない！」と。

「私は別れた！娘のために！あなたも娘の為に夫と別れなさい！」と。

彼女は、彼女が娘を連れて家を出た３０年前の話をして、それは正しい選択だったと主張するのだが、今の時代と３０年前とでは、世間の常識や事情が大きく異なる。

また、彼女達カップルの事情、私達夫婦の事情も異なる。

私を心配してくれているのは分かるし、なかなか本音を言わない、他人のトラブルに関わろうとしないアメリカ人が多い中で、唯一夫のアルコール問題に踏み込んでくれる義理の継母の存在はありがたい。

でも、「別れなさい」としか言わない彼女のアドバイスは、私にとっては、聞きたくない不快な助言である。

もしかしたら、私が娘（と犬達）を連れて家を出ることによって、夫は更なるどん底を味わい、断酒への強い決意を固めてくれるかも知れない。

でも、夫はそうはならないと思う。

彼の繊細さと弱さを知っている私は、夫が更に堕ちていく一因になると思っている。

自暴自棄になり、自ら命さえ断ってしまうかも知れない。

たとえ直接手を下さなかったとしても、飲酒が加速することは容易に考えられ、それが結果的に死に繋がるだろう。

こんな生活、私だってしたくはない。

夫と離れて暮らしたら、どんなに気持ちが楽になるだろうと思う。

でも、泥酔時の夫の理不尽な暴言や行動は、アルコール依存症という病気がさせているのだ。

元々気難しい人ではあるのだが、それでも私達はお互いを必要とし、お互いの相性も合っていると思っている。今まで何度大きな喧嘩をしたことだろう。いっそのこと、もう死んでくれ！とさえ思ったこともある。でも、夫がシラフになれば、そんな気持ちはきれいサッパリ消え去り、また思いやりを持って接することができるのだ。これはもう、腐れ縁ということでしか説明がつかないのかも知れない。

はたまた、これが「共依存」というものなのだろうか？私は専門家ではないのでよく分からないが、少なくとも私が夫の病気に大きな影響を受けていることは間違いないだろう。いずれにしても、今は夫の側で、希望をもって夫の回復の応援をしたいと思っている。

そして義理の継母は一度、私にこんなことを言った。

「彼氏を見つけなさい！」

・・・・・。

彼女の気持ち、意図することは分かる。

私だって、相談に乗ってくれる男性が側にいれば、心強くもなるし、もしかしたら夫を見限り、新しい人生を歩んでいけるキッカケになるかも知れない。

でも私は、そんな風に簡単に割り切れない。

そんなオプションは私はいらない。

だから「別れなさい」だなんて言わないで！

ましてや、「彼氏を見つけなさい」だなんて言わないで！

義父が義母と婚姻関係にあった時から義父と不倫をしてきた義理の継母ならではの、彼女が理想とする簡単な解決策なのかも知れないが、それを価値観の違う私に押し付けるのはやめて頂きたい。

今はもう、彼女に夫の相談をすることはない。