理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

夢のまた夢

夫の病気がもし、いつか回復して安定してくれたら、家族みんなで旅行に行きたい。

 

アルコール依存症者と一緒に何かをする計画は、結局最後になって予定が変わることが多い。前日までシラフだったのに、旅行当日に飲酒を始めて計画を中止にせざるを得なくなったり、酷い時には泥酔しながらの旅行になり、結局旅行そのものが台無しになってしまう。それで今までにも何度も失望させられ、その分、皮肉にも、私は娘との二人だけの想い出が増えた。

 

犬達を迎え入れてから、家族での飛行機で行くような遠出の旅行はしていないが、車で行けて、犬達も泊まれるホテルがあるところならどこでもいい。

 

犬達を含めた家族で行ける旅行先として一番現実的なのは、海に行ったり、山でキャンプをしたりすることだろう。これらの場所は過去に犬達を連れて行ったことがあり、家族みんなで過ごすには最高の場所である。そして私達の言う「家族」には、常に犬達が含まれている。

 

人間の赤ちゃん程の重さの、5歳と3歳の女の子の犬達は、常に私達家族の中心にいる。必然的に、私達の旅行先は、犬達が喜び、私達も楽しめるところになる。

そんな家族旅行を普通に計画して、それが実現する日がいつかまた訪れてくれたら嬉しい。

 

もう一つ。

もし、いつか夫の病気が回復したら、家に友人達を招いて、カラオケパーティをやりたい。

 

おとなしい私ではあるが、歌うことだけは積極的である。

J Pop、昭和の歌謡曲、演歌、洋楽、ジャズ、オペラと、何でも任せてくれ!・・・である。

 

アルコールが入らないと歌わない友人達が多い中、私は逆に、アルコールが入ると声が出なくなって歌えない。だから私は昔から、ガンガン、シラフで歌う。(おとなしいはずの私ではあるのだが、カラオケにおいては、水を得た魚状態である。)

 

私が夫のアルコール問題で溜まっているストレスを発散する娯楽は、カラオケをすることである。夫がシラフの時を見計らって家で一人カラオケをし、一人で何時間も歌い、大声を出し、あースッキリした~!となるのである。

 

その間、夫は私の歌になんて関心なさそうに、静かにノートパソコンをいじったりしているのだが、避難できる部屋がいろいろあるにも関わらず、私がいる部屋から出て行こうとしないところをみると、私の『熱唱』を別に迷惑には思っていないのだろう。気がつくと、「私が歌う日本の曲」の鼻歌を何気に歌っている夫に、なんとなく微笑ましくなる。

 

ただ、一人カラオケほど気合いが入らないものはない。友人達とワイワイガヤガヤ歌ってこそ、歌うことを全身で楽しめるのだ。(夫はシラフでは歌わないし、かと言って酔っぱらった夫がマイクを持って歌い出すと、それはそれでウザくてその相手をするのも嫌だから、結局一人カラオケになってしまうのだ。)

 

私の友人が年に数回彼女の自宅でカラオケパーティを開いてくれるのだが、私はそれに必ず参加する。・・・というより、彼女はいつも、私の都合を真っ先に聞いてからパーティの日にちを決めてくれる。みんなで手料理を持ち寄り、私以外のみんなはワインなどを飲み、私は歌いまくり、めったに会わない友人達との時間を楽しむ。

彼女にはいつも感謝をしています。どうもありがとうございます。

 

ただ、私自身が自宅でこのようなパーティを開くことは、やはり無理な話なのかも知れない。時々ウォッカのボトルが床に転がっている我が家ではあるが、基本的には、ウチの敷地内は、言わずもがな、「アルコール禁止」だからである。夫がいない時ならまだしも、夫が家にいる時は、アルコールは一切持ち込みたくない。

 

アルコールなしのカラオケパーティなんて、きっとみんなつまらないでしょうね。

だから、これはきっと私のひとりよがりの夢に終わってしまうだろう。

 

でも、もしいつか夫の病気が回復したら、今はできないいろいろな楽しいことができるようになるんだろうな、と、そんな夢を見て希望につなげている。

これが現実になるかどうかは分からないが、回復の先には、みんなの楽しい笑顔が想像できる。

 

・・・と、気晴らしにちょっと夢を見てみたが、本当にいつか回復なんてするのだろうか?

 

夫のアルコール依存症は、もう既に末期のステージに入っている。

身体的限界が来て、衰弱して体がアルコールを受け付けなくなるまで連続飲酒をし、錯乱状態に陥る程の離脱症状を迎える。そしてしばしの断酒で体調が回復してくると、又、連続飲酒を始める。

これはどうやら、「山型飲酒サイクル」と呼ばれる、典型的な末期のアルコール依存症者のパターンらしい。

 

こんな夫のような末期のアルコール依存症者でも、回復する日が来るのだろうか?

 

頑固な夫の信条により、リハビリに行くこともなく、専門家にも診てもらわず、薬を飲むこともなく、果たして、AAに行くだけで、夫の症状は回復していくのだろうか?

 

そのAAさえも、当初は週5日行くと意気込んでいたものを、今は気が向いた時だけしか行っていない。(予想できたことではあるが。)

 

夫が社会から脱落し、普通の生活が営めなくなってもう丸2年。

怒りと悲しみと苦しみと脱力感に見舞われたこの2年間。

いや、夫のアルコール問題に日々振り回されてきたこの10年間。

私は無駄な時間を過ごしてきたのだろうか?

これから先、1年後、2年後、私達はどうなっているのだろうか?

 

夫の状態、未だ安定せず。

今はただ、ゆっくりと同じような時間だけが流れている。

 

 

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