理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

夫の健康状態

夫が一番最後に医師の診察を受けたのは、会社から救急車でERに搬送された、2016年8月のことだった。ここでも以前大まかに書いたのだが、かなり割愛してあり、あの日の出来事とそれ以降の夫の様子は、今思い返しても胸が苦しくなる。

それから約2年半の間、何十回も離脱症状があったにも関わらず、夫はどんなに酷い状態でもERに行くことを拒否し、健康診断にさえ行かなかった。

 

アルコール依存症は否認の病気と呼ばれ、通常アルコール依存症者は自分がアルコール依存症であるということを認めたがらないそうなのだが、これは夫には当てはまらず、夫は最初から素直に自分がアルコール依存症であるということを認めている。

むしろ、「自分はアルコールに問題があり、それによる離脱症状が起こっている」と、誰よりも早く自ら結論づけたのだ。あれだけ死の淵に立たされ、アルコール依存症の症状に苦しんできたのだから、認めないわけにはいかないだろう。

 

そんな夫が病院に行かないのは、医師を信用しておらず、また、行ったところでこの病気の治療法はなく、自分が断酒することでしか回復への道はないと分かっているからである。

せめて断酒補助の薬でも処方してもらえばいいものを、あの気難しい夫の頭の中は、私には全く理解ができない。

 

ところで、アメリカには日本にあるような「人間ドック」なるものはない。

アメリカの医療制度/医療保険制度について書き始めると相当長くなり、また、間違えた情報を広めたくもないので、それについてはここに書くつもりはないのだが、普通の健康状態の人がアメリカで受ける健康診断は、通常、年1回(または2回)の血液検査のみである。(女性は、乳ガンや婦人科の検査が別途ある。)

 

バリウムを飲むこともなく、心電図を測ることもなく、その血液検査の数値を見て、医師の診断を受ける。(もちろん、血液検査の結果によっては、更なる検査をするとは思うのだが。)

 

これは、アメリカの高額な医療費、及び高額な医療保険料が関係しているのだと思う。なるべく費用が掛からないように、最低限の検査しかしないのであろう。(・・・と私は勝手に推測しているのだが、もしかしたら本当の理由は他にあるのかも知れない。)

日本で体の隅々まで検査をしてもらえる人間ドックを受けられることは、本当に恵まれていると思う。とにかくアメリカの医療/保険制度はかなり複雑で、それにイライラさせられた在米日本人は沢山いるだろう。

 

ちなみに、私が働いている会社の日本人駐在員達は、いい医療保険に入っているにも関わらず、アメリカに人間ドックなるものがない為、日系のクリニックで、保険適用外の人間ドックを受けている。

 

前置きが長くなったが、この度夫は、2016年のER搬送以来、初めて健康診断で医師に診てもらった。今まで頑なに病院へ行くことを拒否し続けていた夫が、何故今になって病院へ行くことを承知したのかというと、恐らく、今の自分の健康状態をきちんと把握し、回復へ向けて全てをリセットしたかったからなのだろう。

 

夫が診てもらった医師は私のかかりつけ医でもあるのだが、彼女のご主人もアルコール依存症であり、前に話した時には、離婚手続きの最中だと言っていた。

そして今回夫が診てもらった時、夫は彼女から、彼女のご主人が亡くなったことを聞かされたらしい。

アルコールが原因なのかどうかは分からないが、彼女のご主人の死をお悔やみすると共に、離婚に至るほどの酒害を受けてきた彼女のこれからの人生を応援したいと思う。

 

さて、夫の血液検査の結果なのだが、結果は・・・

 

・・・「異常なし」。

 

えっ・・・本当なの!?

 

にわかに信じがたい結果に、夫も私も驚き、二人で喜んだ。

しかしながらこれはあくまでも血液検査のみの結果であり、きちんと「人間ドック」と同じような検査をしたら異常が見つかっていたかも知れない。血液検査だけでどこまで調べられるのか私には分からないが、アルコールで脳がやられてアルコール依存症になってしまったという事実を考えると、一概に「異常なし」とは言えまい。

 

そういえば前回(数年前)の血液検査でも数値に異常はなく、当時からアルコール依存症であったにも関わらず、正常な数値が記されたこの結果に驚いたのを覚えている。

 

夫は重度のアルコール依存症ではあるのだが、シラフの時の顔つきは、普通の人に見える。

回復したアルコール依存症の方々を見ると、時々、一目見ただけで「長年アルコールを飲み続けて来た人の顔だ」というのが分かる時があるので、回復途中の夫の顔が普通の人の顔つきであることに、少し安心している。

 

あの、異常なほどまでの大量なウォッカの影響を、脳以外に受けていないと思われる今の夫の健康状態は、夫に、これからの回復への前向きな気持ちをもたらせてくれた。

そして、私もこういう小さなことが嬉しくて希望につながり、笑顔になった。 

 

 

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