私の回復

夫の断酒、継続中。

そんな時の私は、平穏な日々に安らぎを覚えると共に、スリップ（再飲酒）という時限爆弾を抱えている心境で、怖くもなる。

これは儚い、嵐の前の静けさなのだと、そんな気持ちがいつも心の片隅にある。

そして、断酒が続いていて嬉しいはずの私は、その裏返しなのか、つい夫に不機嫌な態度を取ってしまう。まるで夫にアルコールの問題がないかのように、してはいけない態度で夫に接してしまう。

まさか私は、夫と共依存関係にあることに、自分でも気付かない喜びを感じているのだろうか？厄介で複雑な病気になってしまった夫を支え、夫と一緒にこの病気と闘っている自分の状況に、まさか、酔いしれているのだろうか？

いや、そんなはずはないだろう。

誰よりも夫の回復を望んでいるのは、他ならぬ、妻であるこの私なのだ。

夫にストレスを感じさせてスリップさせようとしているのだとしたら、それはまるで、代理ミュンヒハウゼン症候群のようなものであり、病気である状態を密かに望み、病気が回復しようものならまた悪化させようとする、精神が病んだ看護者のようなものである。

もちろん私はそうではないのだが、夫の回復の妨げになるようなことをしてしまう私は、自分でも何故夫に優しくすることができないのかが分からない。

理由があるとするなら、きっと、まだ心が不安定だからなのだろう。

優しくした挙句に再飲酒されたら、きっと心が酷く傷ついてしまうから、それで優しくすることができないのかも知れない。

私は生活の変化が怖い。

あれだけ夫の回復と、無事に社会復帰して普通の家族に戻れる日々を心待ちにしているのに、その第一歩を踏み出すことが怖いのだ。

時間が経ち過ぎて、臆病になってしまったのだろうか。

傷つくことを恐れて、期待しないようにしているうちに今の状況に慣れ、これが私達家族の普通の姿なんだと、そんな風に定着してしまったのだろうか。

いや、生活の変化で私が恐れていることは、夫が新しい仕事に就き、いろんな手続きを終え、家族みんなが喜んでこれからだという時に再飲酒を始めて、連続飲酒へと再び堕ちて行くこと。そしてまた仕事を失い、振り出しに戻ってしまうこと。そういうことを考えると、夫が社会復帰へと踏み出すことが怖いのだ。

夫が、働き始めた時のために新しくスーツを買い、笑顔で私に着て見せてくれても、私は心から喜べなかった。「まだ早いでしょ？どうせそんなのあっても、着ることなんてないんでしょ？」と、心の中で悪態をついてみた。

だから自然と笑顔がこわばった。

夫の前向きな気持ちは、今の私には戯言にしか聞こえない。

もっと単純に、一緒になって喜んであげられればいいのだが、また失望させられることが怖くて、つい気持ちにバリアを張ってしまう。

夫の心と身体は徐々に回復の兆しを見せているのに、それに私の心の回復が追いついていない。

夫の断酒に疑心暗鬼になっている今の私の病も、そんな単純なものなどではなく、私の回復にも、どうやら長い時間がかかりそうだ。