もうひとつの病
夫は、断酒に必要不可欠なことを何もやっていない。
リハビリ施設にも行かず、専門家の治療も受けず、断酒補助の薬も飲まず、AAにも行かず、で、自分はそれでいいと思っている。本当に難しい男である。
スリップされた日は、私は仕事中でもそのことを思い出して心が苦しくなり、胸がキューっと痛くなった。
夫は自分の飲酒がどれだけ家族に大きな影響を与えているかなんて、深刻に考えてもいないだろう。
アルコール脳になってしまったせいなのか、夫には現実が見えていないような気がする。夫は、何があってもいたって楽観的なのだ。
仕事だって、レジュメを出せばすぐにオファーが来ると思っている。
無職のこの2年半の空白期間を、面接官に一体どう説明するつもりなのだろうか。怖くて本人に聞くことさえはばかられる。
夫と同じ職種で会社をクビになった夫の友人が、すぐに新しい仕事を見つけたと聞き、夫は、「仕事なんてすぐに見つかるんだよ。」と自信タップリに語っていた。
そりゃそうでしょ、あなたの友達はずっとその職種で活躍してきて、無職だった期間などないのだから。あなたと友達を比べるのは間違ってる!そんなこと、夫には分からないのだろうか?
とにかく時々極端に前向きになる私の夫。
アルコール依存症という病に隠れてしまってはいるのだが、夫はその前に、双極性障害なのだと思っている。これはアルコール依存症になる前からその症状があり、医師からそう診断されたわけではないのだが、夫の性格は、極端に躁と鬱の変動が激しく、鬱の時は自殺願望さえ口にする。夫の話を聞いてみると、どうやらティーンエイジャーの頃から、その傾向はあったようだ。
アルコールの離脱症状による最初の入院で、夫は飲む原因を、「ストレスが溜まっているから」と医師に語っていた。ストレスのせいでアルコールを飲むのなら、そのストレスを軽減させるための薬を飲んでみましょう、ということで、夫はそれから確か3年ぐらいの間、何種類かの薬を飲んでいた。アルコールと併用してはいけないという薬を服用しながらも、尚、夫はアルコールを飲み続けていた。
これらの薬はある時期から飲まなくなってしまったのだが、いつかこれらの薬に代わり、断酒補助の薬を飲み始めてくれたらいいなと思っている。それには、まず精神科での受診が必要だろう。(健康診断で診てもらったファミリードクターでは、処方してもらえませんでした。)夫のアルコール依存症以前の精神的な病を含め、一度ちゃんと精神科にかかって、根本的な問題から治療してもらうべきだと思っている。