理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

断酒補助薬(ナルトレキソン or レグテクト)

夫は5年前、働きながらアルコール依存の断酒外来プログラムに通っていた。

連続飲酒はまだなく、飲むのは仕事から帰宅してからの、毎晩の一人家飲み。

世の普通のアルコール好きな人達がやっていることと同じことをしていた。

 

ただ、何度か離脱症状時にERに行かざるを得なかったことがあったため、夫は自らのアルコール問題を認識しており、意を決して断酒プログラムに通っていた。

 

そこで夫は、断酒補助薬にお世話になった。

Naltrexone/Vivitrol(ナルトレキソン)を服用で、そして注射で何度か投与してもらっていた。そのプログラムは半年程で終了したのだが、飲酒量は減ったものの、夫は完全にアルコールを絶つことができないまま、また徐々に元の酒飲みに戻って行った。

 

そして今、夫は再び断酒補助薬を服用することについて、少しずつ前向きになってくれている。

しかしながら、私の夫には変なところで自分の健康に気を使うところがあり、日本でのアルコール依存治療の主流である Acamprosate/Campral (レグテクト)の服用には拒否反応を示している。副作用を心配してのことだが、私からすると、夫がアルコール依存症であること以上に体に悪いことはないだろうと思う。

 

夫が前向きになってくれているのは、Naltrexoneを服用すること。

Naltrexoneは昔からある断酒補助薬で、Acamprosateより副作用が少ないということと、以前にも服用したことがあるため不安がないということ、そして、NaltrexoneもAcamprosateも、断酒の効果は同じくらいだと言われており、効果が同じなら副作用の少ないNaltrexoneがいい、ということで、やっと夫は断酒補助薬を服用することに前向きになってくれている。

 

ちなみにNaltrexoneは断酒補助薬として、アメリカでは一般の人にもよく知られている薬である。この薬はモルヒネに似た構造の化合物で、モルヒネなどのオピオイドとオピオイド受容体の結合を阻害することで飲酒による快楽と飲酒欲求を抑えるものである。また、薬物依存者の断薬補助としても使われており、ギャンブル依存の軽減にも有効だと言われている。日本では未承認らしいのだが、Acamprosateより歴史は古い。

 

本当は、夫にはAcamprosateを服用して欲しいのだが、もう、何の薬でもいいから、とにかく回復の助けになることを取り入れて欲しいと思っている。

 

「Naltrexoneは、5年前は効かなかったんじゃないの?」と言う私に、夫は当時を振り返り、こう語る。「今思うと、あの頃は、本気で断酒に取り組んでいなかった。」

 

夫があの頃断酒の決意を固めていたのは本当だろう。ただ、その本気度は、今に比べると、まだまだ甘かったと思う。5年前と今とでは、状況が違い過ぎる。

それにしても、断酒したいと断酒に取り組み、5年以上経ってもまだこうしてアルコールと闘い、むしろ悪化して何度も何度も再発しているという事実に、この病気の回復の難しさを感じている。

 

夫の性格上、今すぐ行動に移してくれるわけではないと思うが、少しでもそういう風に夫が前向きになってくれると、私は平穏な気持ちになる。そして、微かながらも希望の光が見えて来る。

 

 

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