理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

薬のアルコール

 

最近、某元タレントの方が薬物で逮捕された。

アルコールも薬物も、合法か非合法かの違いだけで、身体への影響や、依存症になった際の依存度、堕ち方、世間からの蔑み、回復のプロセスは似たようなものである。

 

薬物やアルコールに限らず、依存症という病は、世間からの理解を得ることが非常に難しく、誤解をされることが多い。世間の方々には、Relapse (再発)してしまったこの彼のことを、白い目で見て攻撃するのではなく、彼の失敗を通じて、依存症の回復の難しさを知ってもらえたら、彼の過ちも無駄にはならないのではないだろうか。

 

私はこの彼に、別に特別な思いがあるわけでも何でもないのだが、依存症という病の苦しさが分かる故、つい気持ちが寄り添ってしまう。彼のRelapseのニュースには、私も心が苦しくなりました。

 

さて、私のアルコール依存症の夫は、最近風邪をひいてしまったようだ。

私も在米歴は長いのだが、風邪でアメリカの医者から風邪薬を処方してもらったことなどなく、また、娘が小さい頃でさえ、風邪をひいて病院に連れて行っても、医者は娘に対して風邪薬を処方してくれたこともない。薬を処方して下さい、と頼んでみても、医者は市販の薬を勧めてくるだけ。日本在住の頃は、風邪をひけば医者は普通に薬を処方してくれたものだが、アメリカでは、医者から風邪薬を処方される、ということは、あまり聞いたことがない。

 

・・・というより、アメリカ人は、風邪ごときでわざわざ病院には行かないのかも知れない。そして、処方箋がなくてもアメリカの市販の風邪薬はパワフルなので、それで十分間に合ってしまうのである。

 

我が家の大人達が風邪の時にお世話になる市販薬は、だいたいリキッドタイプのNyQuilである。これを飲むと、頭がカーッと熱くなり、そのまま眠ってしまう。眠りたくない人は、NyQuil(夜用)ではなく、DayQuil(昼用)を飲むと良い。

 

風邪をひいた夫は、私に NyQuilを買ってくるように頼んできた。

カプセル状のものもあるのだが、リキッドタイプとどちらがいいのか一応夫に聞いてみた。

「カプセルがいい。」

えー、何で?

「リキッドはアルコールが入ってるから。アルコールは飲みたくないから。」

あ、そっか!そう言えば、アルコール入ってたね!

 

そう、頭がカーッと熱くなり、コロッと眠らせられるこの風邪薬には、アルコールが10%も含まれている。(効用は違うが、養命酒と同類のようなものだろうか。)

そんなこと、全く頭になかった。

 

アルコール依存症の夫は、アルコール入りのこの風邪薬を、今後一切飲むことができない。

「そっか、NyQuil、もう飲めなくなったんだね。」

やはりアルコール依存症当人の夫は、私以上に、アルコールには敏感になっているようだ。

 

このように、本人が細かくアルコールに気を付けてはいても、Relapseしてしまうことはある。

RelapseかSober(シラフでいること)かは、紙一重のようなものである。

 

だから、夫の失敗を責めたくても責めてはいけない、と私も頭では分かっている。

それに振り回される周りも苦しいのだが、本人も勿論苦しいはずであり、私には、夫のことも、Relapseした人達のことも、軽蔑したり責めたりすることはできない。(・・・と言いながらも、それが夫だと、つい責めてしまうのだが。)

 

先に書いた某元タレントの方のRelapseも残念に思うが、Relapseしてしまうことは回復の過程で珍しいことではなく、この病の深刻さと治療の難しさを再認識するという意味でも、依存症者には必要なプロセスである。

 

何年、何十年とsoberでいても、ちょっとしたキッカケでまた元に戻ってしまうから、依存症とは、本当に厄介な病である。

 

 

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