理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

酔っ払いへの先入観

世間の、アルコール依存症者への誤解や蔑みが悔しくて悲しかった。

でも、実は私の方こそ、酔っ払いを見下していたんじゃないか、と何年も経って気付かされた出来事があった。(酔っ払い、という言葉を使うこと自体、見下しているみたいなのだが。)

 

私は友人に夫のアルコール依存症を告白する時、一緒にある動画を見せることがある。

それは、いつか何かの証拠に、と隠し撮りをしていた、酔っ払って呂律の回らない、夫の私への暴言の動画だ。ゆっくりとした口調、でも支離滅裂で意味不明な内容。そして衝撃的。夫は、その動画の最後に意識を失い、床に倒れ込むのだ。恐ろしいことに、その際夫は頭をテーブルに強く打ち、その頭を打った箇所から数センチの所に、鋭利な物が置いてあったのだ。そこに頭をぶつけていたらそれが頭に突き刺さり、夫は間違いなく死んでいただろう。

 

当時、この動画を義母に見せたら、義母は無言で涙を流した。当時の私は、「こんな息子で申し訳ない。息子がこんなに酷い仕打ちをあなたにしてごめんなさい。」と私に謝りもしなかった義母に腹が立った。

 

この動画を見た友人達はみんな衝撃を受けたようで、私を抱きしめてくれた子もいた。

みんな一様に、酔って暴言を吐いている酷くて危ない夫と、暴言を吐かれる可哀想な私、という目で見ていたと思う。

 

この動画を、最近ある友人に見せた。

彼女は元彼がアルコール依存症で、彼女に暴力を振るい、シェルターに行ったこともあるらしい。でも深みに入る前に別れたようで、彼女はそこまで酷い経験をしてきたわけではなかったようだ。

 

この動画を黙ってじっと見ていた彼女。

見終わった直後、彼女は両手で私の手を握り、目を瞑って私にあることを言った。そして私はその彼女の言葉に驚いて衝撃を受けた。

 

「旦那さんが言ってる言葉がね、・・・旦那さんの悲しみと不安が伝わってきた。こんな僕を捨ててどこかに行くんでしょ?って。だから、わざと嫌われるようなことを言ってると思った。あなたの名前を呼んでたけど、時々それがお母さんって聞こえて、母のように求めてると思った。支離滅裂じゃないよ。旦那さん、自分の苦しみを言ってるよ。」

 

・・・えっ!?

 

私はずっと、夫は支離滅裂なことを言って私を攻撃していたのだと思っていた。

何故なら、酔っ払っていたから。

でも彼女が言うには、あの動画からは、夫の悲しみが伝わってきたらしい。

夫の悲しみ?そんなことを言われたのは初めてだった。

 

酔っ払っているから支離滅裂なことを言っていると思っていた。

でも、そう思わない人もいた。

ちゃんと、悲しみを言っている、と理解した人がいた。

 

アルコール依存症だからと世間に蔑んで欲しくないと思っていた私は、実は、私こそアルコール依存症を見下していたのかも知れないな、と、彼女によって気付かされました。