酔っ払いへの先入観
世間の、アルコール依存症者への誤解や蔑みが悔しくて悲しかった。
でも、実は私の方こそ、酔っ払いを見下していたんじゃないか、と何年も経って気付かされた出来事があった。(酔っ払い、という言葉を使うこと自体、見下しているみたいなのだが。)
私は友人に夫のアルコール依存症を告白する時、一緒にある動画を見せることがある。
それは、いつか何かの証拠に、と隠し撮りをしていた、酔っ払って呂律の回らない、夫の私への暴言の動画だ。ゆっくりとした口調、でも支離滅裂で意味不明な内容。そして衝撃的。夫は、その動画の最後に意識を失い、床に倒れ込むのだ。恐ろしいことに、その際夫は頭をテーブルに強く打ち、その頭を打った箇所から数センチの所に、鋭利な物が置いてあったのだ。そこに頭をぶつけていたらそれが頭に突き刺さり、夫は間違いなく死んでいただろう。
当時、この動画を義母に見せたら、義母は無言で涙を流した。当時の私は、「こんな息子で申し訳ない。息子がこんなに酷い仕打ちをあなたにしてごめんなさい。」と私に謝りもしなかった義母に腹が立った。
この動画を見た友人達はみんな衝撃を受けたようで、私を抱きしめてくれた子もいた。
みんな一様に、酔って暴言を吐いている酷くて危ない夫と、暴言を吐かれる可哀想な私、という目で見ていたと思う。
この動画を、最近ある友人に見せた。
彼女は元彼がアルコール依存症で、彼女に暴力を振るい、シェルターに行ったこともあるらしい。でも深みに入る前に別れたようで、彼女はそこまで酷い経験をしてきたわけではなかったようだ。
この動画を黙ってじっと見ていた彼女。
見終わった直後、彼女は両手で私の手を握り、目を瞑って私にあることを言った。そして私はその彼女の言葉に驚いて衝撃を受けた。
「旦那さんが言ってる言葉がね、・・・旦那さんの悲しみと不安が伝わってきた。こんな僕を捨ててどこかに行くんでしょ?って。だから、わざと嫌われるようなことを言ってると思った。あなたの名前を呼んでたけど、時々それがお母さんって聞こえて、母のように求めてると思った。支離滅裂じゃないよ。旦那さん、自分の苦しみを言ってるよ。」
・・・えっ!?
私はずっと、夫は支離滅裂なことを言って私を攻撃していたのだと思っていた。
何故なら、酔っ払っていたから。
でも彼女が言うには、あの動画からは、夫の悲しみが伝わってきたらしい。
夫の悲しみ?そんなことを言われたのは初めてだった。
酔っ払っているから支離滅裂なことを言っていると思っていた。
でも、そう思わない人もいた。
ちゃんと、悲しみを言っている、と理解した人がいた。
アルコール依存症だからと世間に蔑んで欲しくないと思っていた私は、実は、私こそアルコール依存症を見下していたのかも知れないな、と、彼女によって気付かされました。