理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

Chapter 5

親愛なるアルコール依存症の夫へ

あなたがこの病気になってから、辛く、苦しいことが沢山ありました。 あなたへの信用を失い、あなたを酷く憎み、あなたが時折くれた小さな希望に喜び、あなたの嘘に失望し、あなたの行動に何度も泣き、そうやって、まるでジェットコースターにでも乗っている…

Rehab(リハビリ施設)

アメリカでのアルコール依存の治療は、リハビリ施設(Rehab)へ行くことが最後の砦だろう。 日本ではアルコール専門病院なるものがあるようで、アルコール依存症者が3カ月程入院をしてそこで治療を受けたり、アルコール依存症についての勉強をするようなのだ…

アメリカのアルコール事情

日本はアルコールに、非常に寛大な国である。 それに比べ、アメリカではかなりアルコールに関する規制が行われており、渡米した当初は驚いたものだ。 アメリカでは、21歳から飲酒することができる。 TVでのアルコールのコマーシャルはなく、街中にはアルコ…

希望の象徴 (Wreaths)

私が高校時代に英語と同じくらいに、いや、もしかしたらそれ以上に得意としていた教科は、美術である。 私はクラフト作りが好きだ。 作るものはその時によって違うのだが、一度ハマると、延々と作り続けてしまう。 娘を出産してからハマったものは、赤ちゃん…

アルコールに感謝してみる

もし夫がアルコール依存症から回復し、これから先、何年も何十年も、ずっと断酒を続けてくれたら、私はきっと、夫がアルコール依存症になってしまったことに感謝をするだろう。 何故なら、酔っぱらった夫の姿を、もう見なくて済むから。 あの醜態に、嫌な思…

断酒補助薬(ナルトレキソン or レグテクト)

夫は5年前、働きながらアルコール依存の断酒外来プログラムに通っていた。 連続飲酒はまだなく、飲むのは仕事から帰宅してからの、毎晩の一人家飲み。 世の普通のアルコール好きな人達がやっていることと同じことをしていた。 ただ、何度か離脱症状時にERに…

白昼夢 ~ Daydreaming ~

夫の病気が回復せずにこのまま悪化していったら、私達はいずれ家を失い、家族が崩壊するだろう。 夫がまだ元気に働いていた時、その頃から酷かった離脱症状を見て、義父母は「このままだと仕事を失うよ。」と言った。 そして、それが現実になった。 今、夫が…

機能しない人

夫が連続飲酒と離脱症状で廃人化し、人として機能しなくなる時、私は夫を自分の視界に入れないようにする。夫の存在を消し、私は一家の主となる。 冬の大雪の時、ご近所さん達が夫婦で仲良く協力して雪掻きをする中、私は一人で雪掻きをする。 夏は庭の芝生…

フラッシュバック

夫が断酒中に、アルコールとは関係なく、単に夫の体調が悪くて寝込んでいる時、私の心はザワついてしまう。 夫がだるそうに昼間から寝ているその姿に、私は夫の体調を心配するどころか、あの飲酒時のダラダラしている姿とオーバーラップしてしまい、怒りが込…

被害妄想

アルコール依存症者は、泥酔時に身近な家族に暴言を吐き、時として被害妄想に落ち入って家族を責め立てるようなのだが、私の夫も例外ではない。 私がよく夫の泥酔時に責められたことは、「お前が自分と一緒にいるのは、お金目当てなんだろう!」というもの。…

Fragile

心が折れそうになる。 本当に、独りなんだなって。 誰も助けてくれないんだなって。 人に期待してはいけないのだが、この苦しみを、独りで抱えていることが辛い。 頼りにならない義父母。 夫の病に関わりたくない義兄と義妹。 彼らはただの静観者。血は繋が…

非道な心

私は自分がする夫への非情な対応に、自己嫌悪に陥る時があった。精神が病んだ末にやってしまったことだとはいえ、とても心がある人がすることだとは思えないことをしていた。苦しむ夫を無視したり、助けずに放置したり、気にかけてあげなかったり。これらは…

非情な対応

夫が飲酒をすると、最初の頃は懸命に夫の世話をしていたものだが、夫の状態が悪化するにつれ、私は夫を無視して放置するようになった。 泥酔して床で寝ていても、ブランケットをかけてあげることもなく、そのままそこに放置。家の玄関や庭へのドアに挟まって…

アルコールで身を滅ぼす有能な人達

世間の多くの方々がいまだに思っているように、アルコール依存症は、意志が弱くてだらしない人達がなるというわけではない。アルコールを毎日大量に飲み、それが何年にもわたると、誰もがこの病気になってしまう可能性があるのだ。そして適切な治療を受けず…

親心

夫の連続飲酒中は、気をしっかり持つべく、私自身のために楽しいことをしようと思ってはいても、何だかんだで気分が沈む。 同じアルコール依存症でも、夫が働いてくれているなら、どんなに家族の気持ちが楽になるだろう。こんな底辺の生活にも慣れてしまった…

もうひとつの病

夫は、断酒に必要不可欠なことを何もやっていない。 リハビリ施設にも行かず、専門家の治療も受けず、断酒補助の薬も飲まず、AAにも行かず、で、自分はそれでいいと思っている。本当に難しい男である。 スリップされた日は、私は仕事中でもそのことを思い出…

アンガーマネジメント

夫に期待することをやめ、アルコール依存症の回復過程でスリップするのは当たり前のことなのだと分かってはいても、ある程度断酒が続いた後にスリップされると、メンタルのダメージが酷い。 「レジュメをアップデートして、仕事を探すよ!」などと前向きな発…

無償の愛 ~ Unconditional “Doggy” Love ~

シラフの夫は、相変わらず気難しくて扱いにくい男ではあるものの、まぁ頑張って断酒を続けてくれている。 夫が断酒前と変わったこと。 犬達の散歩に、喜んで進んで行ってくれるようになりました。 夫の犬達への接し方は、見ていてこっちの顔が緩んでしまうほ…

堕落した夫の責任感

生活の変化が怖いと感じている私ではあるのだが、いつまでもこんな生活を続けているわけにはいかず、やはり夫には、早くちゃんと仕事に復帰して欲しいと願っている。 最初の頃は必死だった。 夫にリハビリ施設へ行ってもらい、断酒補助の薬を飲んでもらい、A…

私の回復

夫の断酒、継続中。 そんな時の私は、平穏な日々に安らぎを覚えると共に、スリップ(再飲酒)という時限爆弾を抱えている心境で、怖くもなる。 これは儚い、嵐の前の静けさなのだと、そんな気持ちがいつも心の片隅にある。 そして、断酒が続いていて嬉しいは…