理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

Fragile

心が折れそうになる。

本当に、独りなんだなって。

誰も助けてくれないんだなって。

人に期待してはいけないのだが、この苦しみを、独りで抱えていることが辛い。

 

頼りにならない義父母。

夫の病に関わりたくない義兄と義妹。

彼らはただの静観者。血は繋がってはいても、他人事。

 

それが分かるから、義兄にも義妹にも、私から夫についての話はしない。

されても返答に困るだろうし、無視されるのも嫌なので、自分からは言わない。

とは言っても、向こうからも聞いても来ないのだが。

 

だから義母にそれとなくお願いしてみた。

「夫に精神科で断酒補助の薬をもらうように、義兄から言ってもらって下さい。」

 

義兄はあれでも精神科医。

そして、弟である私の夫の病に対して、親身になってくれたことなどない。

今までに何度か切羽詰まって助けを求めた時があったのだが、いずれも見事に無視された。

離脱症状についても、「演技をしてるんじゃないか?」と義母に言っていたらしい。

そしてそれを真に受け、義母も「あの子の離脱症状は、構って欲しくて演技してるんじゃないの?」と私に聞く始末。

全く、この母親にしてこの息子あり。

そもそも、夫の離脱症状に立ち会ったこともない義兄に、それが演技じゃないか、などと言って欲しくもない。

私が彼の患者だったら最低のReviewを書き、こんな医者とは二度と関わりたくない。

 

最後に義兄にテキストしたのは、ちょうど2年前の今頃だった。「夫が無職になってもう7ケ月です。夫は専門家に助けも求めず、状態がどんどん悪化していっています。ただただ飲み続け、泥酔し、ゾンビのようになり、離脱症状で苦しむことを繰り返しています。義母も義父も、自分達には何もできないと言っています。私も本当に途方に暮れていて、心がどんどん病んでいっています。どうか、夫に電話して話をしてやって下さい。」等々、かなり切羽詰まったテキストを送った。

それに対する義兄からの返信はなかった。

 

完全に無視されている私。それでも、小さな望みをかけて、私は義兄に久しぶりにテキストしてみた。「どうか、夫に精神科で診てもらい、断酒補助薬を処方してもらうことを勧めてやって下さい。」義兄からは以前、自分の患者でない弟に、自分からは薬の処方はできないと言われていたため、せめて精神科医として、夫を精神科医に診てもらうことを勧めて欲しかった。

 

義母にも一応伝えた。「義兄に、精神科で断酒補助薬をもらうことを夫に勧めてもらうよう、お願いしました。」そしてそれに対する義母からの返信。

 

「Good!」

 

なぁ~~~にがグッドだぁ!?あなたは、私が何度も義兄にそう伝えて欲しいとお願いしても、結局義兄に言ってもくれませんでしたよね!?口では「言っとくわ」と言いながら何もせず、私が自分で伝えたと聞いて、明るく「Good!」だなんて、相変わらずマイペースで空気が読めないというか、そういう小さなことで私は義母にイライラさせられる。

 

義兄から、珍しく私宛にすぐに返信が来た。

断酒補助薬は、精神科に行かなくても、ファミリードクターでも処方してもらえるはずだ、と。

(前回の健康診断で処方してもらえなかったから、精神科で、と思ったのだが。。)

 

知らせてくれるのはありがたかったが、そういう話を、何故夫にしてくれないのか理解に苦しむ。義兄も夫も、決して仲が悪いわけではない。ただ、アルコール問題については、触れてはならないトピックだとでも思っているのか、彼らの話す会話の内容は、それに無関係なことばかり。夫がその話題を避けるのは分かるのだが、義兄まで避ける必要はないだろう。

 

精神科医として、兄として、夫に治療を受けることを説得してくれれば私も大変心強いのだが、彼にはそういう、喧嘩してでも心からぶつかっていくというような、そんな夫への兄弟愛が感じられない。義兄はおとなしい人なので、そういう熱いことはしない人なのだろうが、それでも「おとなしい性格」というのは関係ないだろう。私にはやはり、義兄は面倒なことには関わりたくないのだ、という風にしか思えない。そしてそれは、義妹にも言えている。

 

そもそもアメリカ人は個人主義であり、人との境界線がきちんとあるため、人の問題に他人は首を突っ込まないものである。それは家族間でも同様であり、家族でも「本人に向かって本音を言わない」ことはよくある。

 

例えば、日本人は友人間でも家族間でも、「ちょっと太った?」「ちょっと痩せた?」などという外見に関する話題はよく出てくると思う。家族間なら尚更もっと踏み込んで、「太ったねー。もっと痩せないとダメだよー!」などとズケズケと言って来る。アメリカ人はそういう個人の外見や内面について、友人にはおろか、家族にさえも、本人に対してネガティブなことは言わない。心で思っていても言わない。言うなら、本人がいない所で、別の人にそれを言う。「本人にはいい顔をして、裏ではその人を批判する」ことは、家族間でもよくあることである。

 

そういう国民性ゆえなのか、私の義母は、息子である私の夫への厳しい批判を私には言うものの、夫本人の前では決してそれを言わない。それを夫本人に言ってやってよ!と思うのだが、彼らのそういう上辺だけの態度にも、なんだか慣れてしまった。

 

よって、家族でも、その人が内面に抱える問題に踏み込んで本人に直接言わないということを踏まえると、義兄や義妹の夫への態度は、ある意味、正統なアメリカ人がやりそうなことであり、私もそれに対していちいち腹を立てるべきことではないのかも知れない。

 

義兄は、夫に連絡して、薬を飲むことを勧めてくれるだろうか?

今更彼に期待などしてもいないが、苦しい時、心が折れそうな時、少しでも夫に近い周りの人間が歩み寄り、夫を助けようとしてくれたら、それだけで私の気持ちが少し楽になる。

文化が違うこの国でアルコール依存症に関わることは、家族からのサポートという意味で、家族が関わろうとしてくれないから、余計に孤独を感じている。

 

 

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