白昼夢 ~ Daydreaming ~
夫の病気が回復せずにこのまま悪化していったら、私達はいずれ家を失い、家族が崩壊するだろう。
夫がまだ元気に働いていた時、その頃から酷かった離脱症状を見て、義父母は「このままだと仕事を失うよ。」と言った。
そして、それが現実になった。
今、夫が仕事を失って彼らから言われていること。
「このままだと、お金と家と家族と健康を失うよ。」
そして、それはいつか、このまま行けば、きっと現実になるだろう。
もう、疲れました。
もし夫がこのまま堕ちて行き、挙句の果てに私達が家を失ったら、もう夫とは一緒に暮らしたくはない。
もう、夫の病気とは関わらずに生きていきたい。
夫抜きで、私と娘と犬達とで、普通の暮らしがしたい。
もう、十分やり尽くしたから。
だから、お義父さんかお義母さん、その時は夫を引き取り、夫の面倒を見て夫を助けてあげて下さいね。私は娘と犬達に平和な暮らしをさせるため、その時は夫をあなた達に返します。
・・・と、たまにはそんな風に心にない妄想をし、自分を苦しめるものから解放させ、気持ちを楽にして、今、頑張り過ぎないように頑張ってみる。
機能しない人
夫が連続飲酒と離脱症状で廃人化し、人として機能しなくなる時、私は夫を自分の視界に入れないようにする。夫の存在を消し、私は一家の主となる。
冬の大雪の時、ご近所さん達が夫婦で仲良く協力して雪掻きをする中、私は一人で雪掻きをする。
夏は庭の芝生を、手押しの芝刈り機で、数時間かけて私が一人で刈る。
秋は家の周りの落ち葉を、私一人でかき集める。
男手がないシングルマザーの方は、こういう時は大変だろうなと思う。男手があるにも関わらず、使えない私の夫のことは、もういないものだと割り切り、一人で頑張るしかない。
「あそこの奥さん、働き者だなぁ~。ご主人は家で何やってるんだろ?」などとご近所の噂になっていなければいいのだが、ご近所さん達が夫婦で仲良くこれらのことをやる中で、私は一人で黙々と作業をする。そして、人としてこういう基本的な作業ができなくなってしまった夫を想い、苦しくなると共に、惨めな気持ちになる。
雪掻きを、夫も一緒にして欲しかった。
夫に、トラクターのような芝刈り機に乗って、サッと簡単に芝生を刈って欲しかった。
家の周りの落ち葉を、夫と一緒に集めたかった。
そんな面倒くさい庭の手入れ一つ一つが、自分の”Home”をいつくしむことだと思う。
家の外では、日々季節が流れている。
家の中では、夫一人の時間だけが止まっている。
晴れているのか、曇りなのか、雨なのか、雪なのか、木々が緑で溢れているのか、どのように紅葉が美しいのか、枯れ葉は舞っているのか、どれだけの綺麗な花が咲き誇っているのか、そんなこと、酒に溺れた夫には関係ない。
夫には、ウォッカさえあれば、もう、それでいいのだ。
フラッシュバック
夫が断酒中に、アルコールとは関係なく、単に夫の体調が悪くて寝込んでいる時、私の心はザワついてしまう。
夫がだるそうに昼間から寝ているその姿に、私は夫の体調を心配するどころか、あの飲酒時のダラダラしている姿とオーバーラップしてしまい、怒りが込み上げて来るのだ。
体調が悪くなる前に、医者に診てもらえばよかったのに!
あの時診てもらっていたら、今頃回復していたかも知れないのに!
もう何もかもが飲酒時と重なり、私は夫にイライラしてしまう。
そうでなくても、アメリカ人は痛みなどに大げさなのだ。
いや、本当に痛いのは分かるのだが、そこまでドラマチックにアピールしなくっても・・・!と思ってしまう。
そしてダラダラついでに、ちょっと飲酒してしまう、なんてことにもなりかねないから、夫の体調不良時は、私はいつも以上に緊張する。
どうやら私は、自分が思う以上に、夫のことでトラウマになっているようだ。