理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

働かない夫

いつの間にか3年が経っていた。

その間、世間ではCovid(コロナ)が始まり、私は転職し、東京オリンピックが開催され、そしてロシアとウクライナは戦争を始めた。

夫の生活は変わらなくても、世の中は変動している。

 

この3年間は、平和で穏やかな日々ではあったものの、私の心は夫に対して、幾度となくざわついていた。

断酒してくれていることはありがたかったし、飲まないでいてくれるだけでいい、とさえ以前の私は思っていたものだが、それが当たり前になってくると、夫に対して更なる期待をしてしまう。

 

夫は働くこともなく、自由な時間を気ままに過ごしていた。

犬達を連れて自然が溢れた公園に行ったり、家のリフォームをしたり、そして朝までオンラインゲームをしたり。

そんなストレスのない生活が夫には必要だったんだと思い、私は「もう十分静養したよね。そろそろ仕事見つけて!」と言いたいのを我慢して何も言わなかった。

同時に、私はそんな夫の姿に幻滅していた。

 

でもこれがアルコール依存症者と関わる難しさで、私は夫に、なるべくストレスをかけないように気をつけていた。何度も何度も失敗した挙句、断酒がここまで続いている今、私が夫を追い詰めることがトリガーとなって、再飲酒されることだけは避けたかった。

 

だから、働くことを強要しなかった。

飲まないでいてくれるなら、今のほうがいい。

仕事をしないことより、飲まないでいてくれることの方が、私には重要だった。

 

でも、夫が働いていないだなんて、こんなにつらくて恥ずかしいことはない。

会社では、「旦那さんは何の仕事をしてるんですか?」と聞かれたくなくて、夫の話題にならないように気をつけた。また、Covidで「旦那さんはリモートで働いてるんですか?」と聞かれた時も、「いえ、うちの夫は働いてないんですよー。」とも言えずに、曖昧に返事をするしかなかった。

 

また、親戚の集まりなどで、みんな夫が働いていないことを知っているのに、そのことについては何も触れず、何事もなかったかのように、みんな普通に夫と世間話をすることが私には悲しかった。誰か一人ぐらいは、「仕事探してる?」だの、「仕事どうするの?」だの、核心に触れて夫に聞いてくれてもいいのに、誰も何も言わない。まぁ、夫が連続飲酒していた時でさえ、夫にアルコールに関することは誰も何も聞いてこなかったし、みんなそういう深刻な話には関わりたくないのはもう分かっているので、今更悲しむこともないのだが。

 

そんな私なので、やはり年に数回は爆発して夫を罵ってしまうことがあり、ついには「働きもせずゲームばっかりしてることに幻滅する。私に触るな!」とまで言ったこともある。言ってしまってからは、「これで飲んだらどうしよう!?」と不安になるものの、夫はどうにかアルコールに頼らないでいてくれたようだ。

 

夫はAAに行かない代わりに、断酒薬を飲まない代わりに、思いっきりストレスフリーな生活を楽しんでいた。当初飲んでいた不安障害の薬も、いつの頃からか、飲まなくなっていた。