理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

離脱症状

初めて離脱症状が現れたのは、もう8年ぐらい前だろうか。
原因不明の発作と震え、けいれん、それが4カ月に一度ぐらいの間隔で起きていた。初めての離脱症状から2年ほど経った時に、夫は初めてこう言った。
「原因はアルコールだと思う。」

 

離脱症状が起きると、私は懸命に夫を看病した。ERに連れて行ったまま、それから即入院になったのが4回、旅行先で警察に救急車を呼ばれてERに運ばれたのが1回、そして、職場から救急車でERに運ばれたのが1回。

 

幻覚、幻聴も頻繁に起きていた。離脱症状が起きると、夫はもがき苦しみ、この世のものとは思えない叫び声をあげ、映画で見るような精神障害者と同じ行動を取る。"KILL ME, KILL ME, KILL ME…!(殺してくれ!殺してくれ!殺してくれ!)"と私をしつこく追い回し、それが夜中であろうと、違う部屋に避難しようと、しつこく夫は私を追いかけて来て助けを求める。

 

「私には何もできない!救急車を呼ぶから!」と何度言っても、夫は頑なに拒否する。ERに連れて行かれると即入院させられ、高額な医療費がかかるということが過去の経験で分かっているからである。

 

夫の意に反して救急車を呼んだところで、私にとって何もいいことはない。そこで例え夫の命が助かったとしても夫から感謝などされることもなく、夫は私を罵倒し、責め立てることが目に見えているからである。夫のために夫を助けたとしても、そんな仕打ちを受けるくらいなら夫を苦しませた方がいい。夫が本当に危険な状態になった時には、彼はその時になって初めてERに行くことに同意すると今までの経験から分かっているからである。

 

何もできない私は、ただひたすら夫の絶叫と意味不明な独り言を聞かされ、幻覚、幻聴で狂った夫の異様な姿をずっと見せられ、私まで精神崩壊しそうになる。
夫は死ねる方法を探し、薬の瓶を握り締めてウロウロしたり、掃除の洗剤を探すこともある。夫に咄嗟的に死なれても困るので、そんな時は夫のあとをついて、自殺しないように見張っている。

 

目を大きく見開いたまま意識を失い、倒れて動かなくなった時には死んだと思った。まさかこんな時に死んだフリをするわけもなく、目を開けたまま人形のようにダランと動かなくなった夫を揺さぶり、生死の確認をした。動いた。とりあえず生きてて良かった。アルコールの離脱症状は非常に危険で、常に死と隣り合わせなのだ。

 

離脱症状の程度は飲む量によって異なるのだが、このような地獄の離脱症状が徐々に2カ月に一回になり、アルコール依存症で会社を解雇されてフルタイムの酔っぱらいになってからは、大体1週間の連続飲酒ののちに、離脱症状が起こっている。最初は甲斐甲斐しく介抱していた私でも、もう何年もこれに付き合うと、普通の精神ではいられない。毎回同じことの繰り返し。誰も助けてくれない。先が見えない。

 

 

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