理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

義理の母と父

義母と義父は夫が高校生の時に別居をし、それから離婚をしている。義母は離婚原因を義父の浮気のせいだと言い、義父は離婚原因を義母の金銭問題のせいだと言う。義父は当時の浮気相手と現在再婚をしているのだが、この彼らの三角関係は、何十年経った今でも愛憎劇を繰り広げている。私に彼らの真相は分からないが、ただ一つ言えることは、彼らは一度、きちんとお互いの誤解について話し合う必要があるということだ。夫の歪んだ性格や自殺願望の根っこにあるものは、この義父母の問題のような気がしてならない。

 

義母は自分では認めていないが、アルコールを大量に飲む。夫のアルコール依存症は義母のDNAのせいだと誰もが思っているのだ。義母も夫と同じくウォッカを好んで飲み、高校生だった夫は、よく義母が隠していたウォッカを飲んでいたそうだ。その当時に夫がウォッカを飲むことがなければ、もしかしたら今の夫にアルコールの問題はなかったのかも知れない。

 

義母は、夫がアルコール問題で苦しんでいる時、夫には「飲むな」と言いながら、自分は自宅でアルコールを飲んでいる。一度義母宅の家で大量のアルコールを発見した夫は、「自分がアルコール依存症になった理由が分かったよ。」と寂しそうに、呆れたように言っていた。アルコール依存症の夫にこのようなことを言わせる程、義母は大量のアルコールを家に保管しているのだ。

 

電話で話す時でさえ、彼女が飲んでいることに私は時々気付いてしまう。こっちが切羽詰まって、夫に及ぼすアルコールの害について真剣に話している時、彼女は時々クスクス笑っている。酔っているのである。怒りが込み上げてしまう。

 

夫も参加した親戚宅でのパーティに、嬉しそうにワインを持参する義母。そして、アルコールを断とうと苦しんでいる夫の目の前で、普通に自分はワインを飲んでいる義母。お義母様、私には、全く理解ができません。私が小さいころ病気で入院した時、手術前で、お腹がすいていても食事を取ることができなかった私の目の前で、私の両親は、出された食事に手をつけなかった。「娘は食べたくても食べられないのに、どうして自分達は食べられるものか」、と。そういうのが親だと思っているから、義母の行為は、私には全く理解ができないのである。

 

義母だけではない、義父も、義兄も、そして義妹も、夫の前で普通にアルコールを飲む。パーティだから飲むなとは言えないが、せめて義母にだけは、夫を想ってアルコールを飲むことを控えて欲しかった。母親というのは、いつも子供にとって特別な存在だと私は思っているから。

 

私は一度、義母とアラノンに行ったことがある。でも、彼女と一緒に行ったのは大きな間違いだった。義母は自分こそ大酒飲みのクセに、「私はアルコール依存症の家族」という被害者的な雰囲気を醸し出し、私はかえって気分を害してしまった。私がアラノンに行ったのはその一度だけだが、もう二度と義母と一緒に行くつもりはない。

 

こんな義母は空気が読めず、私は今までに何度となく夫のことで彼女と大きな喧嘩をしてきた。私はもともと人と争うことはしないので、夫がアルコール依存症でなければ、彼女と喧嘩することはなかったんだろうな、と思っている。

 

義母がもし、「私もアルコールを辞める。苦しいけど一緒に頑張ろう!」って夫に言ってくれたなら、もう少し彼女のことを見直せた気がする。

 

義父は、夫がアルコール依存症だということを最初は笑って聞き流していた。「息子がアルコール依存症なわけがない。」そう言って、何年も言えずにいた事実を打ち明けた私の言葉を否定した。信じる信じないは勝手だが、初めて夫の離脱症状を見た義父は、その壮絶さに言葉を失っていた。

 

私は時々義父にイライラさせられる。私から見たら彼の考え方は甘くて、私が思う常識とはかけ離れているからだ。夫がアルコール問題で会社に迷惑をかけ、私が不安な気持ちでいた時、「息子は会社にとって必要な、いなくてはならない重要な人物なんだろう?私は心配していない。クビにはならないと思うよ。」とのんびり構えていた。でも私は、会社からもらっていた復帰のチャンスを無駄にした夫に、解雇は免れないと思っていた。実際、会社は夫を見限った。

 

会社を解雇されて、「しばらく家でゆっくりする」と言った夫に対し、私は「時間が経てば経つほど仕事に戻れなくなる。今すぐ新しい仕事を探した方がいい!」と強く言った。でも義父は夫の肩を持ち、「今までずっと働いてきたんだ。家でゆっくりのんびりする時間を持ってもいいと思う。」と微笑んで言っていた。お義父様、普通の人間だったら、仕事を離れてしばらくのんびりしてもいいかも知れません。でも、夫のようなアルコール依存症には、それは逆効果ですよ!飲む自由な時間があり過ぎて、このまま堕ちていきますよ!実際、夫は長期に渡る無職と飲酒の生活に慣れてしまい、会社と社会に復帰する機会を失ってしまった。

 

とにかく義父の考えは甘く、私より何十年も長く生きている割には、私よりも現実を知らないような気がする。

 

甘いのは考えだけではない。義父は、夫を全く怒らない。夫が泥酔して義父の仕事を手伝う約束をすっぽかしても、彼は感情的になったりしない。そして、何事もなかったかのように笑って夫と普通に話をする。これは夫に、「飲んで約束をすっぽかしてもいいんだ。無責任でもいいんだ。」という間違った考えを与えてしまい、彼がアルコールを飲むことを助長してしまう。義父が本気で怒らない限り、夫はいつまでも事の重大さに気付くことなく、このままずっと身勝手に飲み続けるんだろうな、と私は苦々しく思っている。

 

 

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