自堕落な日々

解雇された時、夫は正直ホッとしていた。
もうあのストレスから解放され、アルコールを飲む必要もなくなるからだ。

私は彼に、「今まで一生懸命に働いてくれてどうもありがとう。」と戸惑いながらも感謝をした。
嬉しい感謝ではない、悲しみを伴った感謝である。
まさかこんな形であっけなく解雇されてしまうなんて、平静ではいられなかった。

夫が仕事を辞めたら、もう飲むのは辞められると誰もが思っていた。
ストレスがなくなるから、もう飲む必要がなくなるからだ。

当初新しい仕事を見つけることに意欲的だった夫は、この週末ゆっくりして、月曜日にレジュメ（履歴書）を作り、仕事探しをすると言っていた。
幸い、会社はその翌月まで夫の籍を残してくれていた。
無職の期間もなく、現在仕事を持ちながら職探しをしているという風に見せることができるのだ。
それなのに・・・。

夫の飲み方は変わらなかった。
むしろ、急激に悪化した。フルタイムの酔っぱらいになり、朝から晩まで飲み続けた。
日中仕事に行かない分、それが飲む時間に変わった。

「今まで１１年間働いてきたんだ、unemployment（失業保険）をもらうことにする！」
夫はunemploymentがもらえる半年の間、働かないことを決めた。

最初の３ケ月はとても辛かった。今のように現状に慣れ、諦め、受け入れ、長期戦の覚悟を決めるに至るまでの、「夫はすぐに社会復帰するんだ」という希望を持っていた初期の頃の方がより辛かったように思う。ただ、私はその時はまだ絶望はしていなかった。希望があるうちは、絶望にまでは辿りつかないのかも知れない。

毎朝私が仕事に行く時、夫は既にウォッカを飲んでいる。会社へ行く途中、ハイウェイを走る沢山の車を見ながら、「みんな普通にこうやって仕事に行っているのに、何で私の夫はそれができないんだろう？」と、涙が出た。私が帰宅する時、家に近づくと、キューッと締め付けられるように胸が痛くなった。「今日も夫は一日中飲んでいるのだろうか・・・。」
帰宅すると、いつもソファーや床に寝転がった夫の姿があった。そばにはウォッカのボトルと飲みかけのグラス。
昼間みんなが働いている時間にこのような光景を目にするのは、非常に辛かった。

この日常が、辛さが当たり前になったとはいえ、普通の生活を営めなくしたアルコールと、治療に繋がろうとしない夫の身勝手さを心底憎んでいる。

夫の連続飲酒は約１週間続く。
そして離脱症状が起こり、しばしの断酒をして、そしてまた飲み始める。
最長の断酒期間は３５日、最短は１日だった。

Unemploymentが終わる頃、夫は「仕事を探さないと！」と混乱していた。
今の夫に、普通の人のように働けるわけがない。
「まず、アルコール依存症を回復しないと働けないよ！しっかり治療に専念して！」
私は夫に、心からそう訴えた。

Unemploymentが終わり、貯金を切り崩す生活が始まった。
夫に働いてもらわないといけないのに、こんな状況で働けるわけがない。
それなのに夫は専門家の助けを受けることを拒み、自分一人の力で断酒をしようとしている。そしてすぐに連続飲酒に陥る。

２０１７年の１年間で、夫が連続飲酒した数２３回、飲んだトータル日数１６２日間（連続飲酒で一日中、２４時間）、単純計算で、1.75リットルのウォッカのボトル８１本分。そして、離脱症状の回数２３回、日数にして３３日間。

１年のうち、約半分の時間を、一日中飲んでは暴言を吐き、しつこくからんで酔いつぶれて寝る、ということに費やして来たのだ。そして１年のうち、約１カ月間、幻覚、幻聴、けいれんを伴う離脱症状でもがき苦しんでいた。

夫の脳は完全にアルコールに侵されている。
私がもし夫の立場だったら、家族のためにリハビリ施設に入り、早く社会復帰ができるように自分を犠牲にする。
「AAやリハビリ施設は効かない！」
「ヘロイン中毒のルームメイトは欲しくない！」
こんな我儘な夫の訴えは、私には全く理解ができない。

いつも同じことの繰り返しで、「連続飲酒　→　離脱症状　→　しばしの断酒　→　連続飲酒・・・」をぐるぐると回っているだけ。時間の無駄、そしてお金の無駄である。

このループから抜け出すには、夫が何か事件を起こして警察に捕まり、法によってリハビリ施設に送り込まれる以外に、もう道はないのかも知れない。