葛藤
夫は意志が弱いわけではない。
自分がアルコール依存症であることをちゃんと自覚し、本気で辞めたいと思っている。それなのに飲んでしまうのは、これが病気だからである。
アルコールの恐ろしさは、一般にはあまり知られていないと思うが、実は、ヘロイン等の薬物以上に中毒性が高い、最も危険な合法ハードドラッグだと言われている。また、離脱症状も他の薬物中毒以上に、死に至ってしまうほど危険なのである。
夫は常々、「アルコールを違法にしなければならない」と言っている。
ここまで一般に浸透しているアルコールを今更違法にしてしまうことには無理があるだろうが、そのくらい、他の違法薬物と同じくらい身体を蝕むものなのである。
連続飲酒で泥酔して暴言を吐き、離脱症状ですがってくる。そしてしばしの断酒の後、また連続飲酒。あまりにも振り回され過ぎて精神を病み、私の方こそ夫に、本来の私なら絶対にしなかった暴言を吐きまくる。泥酔時に「死んでくれたら!」と思う反面、死んだら死んだで、きっと安堵な気持ちとは裏腹に、「あの時こうしていれば良かった。そうすれば、夫は死なずに済んだかも知れない。」と後悔するのは分かっている。「事故等をおこして逮捕されてでもリハビリ施設に送りこんでいれば・・・!」、そういう後悔をしたくないから、夫が生きているうちは、例えくじけても、回復に向けて、わずかな希望を捨てないようにしたい。
一度なってしまうと、二度と完治することのないアルコール依存症。回復するには、断酒をし続ける以外に治療法はない。たとえ回復して数十年が経っていたとしても、一度でも飲んでしまえばまた連続飲酒が始まり、アルコール依存地獄へと落ちていく。だからアルコール依存症者は、一生涯断酒をし続けるしかないのだ。
アルコールを飲まない私と、アルコールを飲んではいけない夫。
こうして今一緒にいるのは、必然的なそういう巡り合わせだったのかも知れない。