優等生妻と不良亭主
私達夫婦は、性格が真逆である。
Opposites attract(正反対同志は惹かれ合う)という言葉があるが、こんなに違う性格の者同士が長い間一緒にいて、大きな喧嘩をしないわけがない。
元々温厚で人との争いを好まない私ではあるが、長年の夫婦生活の中で、私は夫に対してだけは言いたいことを言い、時には般若のような恐ろしい形相で夫に対して怒鳴りつけるようになった。それだけ夫とは気を遣わない関係だといえば聞こえはいいのだが、私は本来こんな人間ではなかった。
私の性格は、夫によって大きく変わってしまった。
私はアルコールを全く飲まない。煙草も一切吸ったことがない。
日本在住だった20代の頃は、飲み会の雰囲気が好きで頑張ってアルコールを飲んでいたのだが、一杯目ですぐに酔いがまわり、顔が赤くなって心臓がドキドキし、眠くなってしまう。私の身体は元々アルコールを受け付けないのだ。今までも、そしてこれからも、私の人生にアルコールは全く必要ない。また、私はおとなしく温厚で、社会のルールを守り、人の意見を聞き、常に時間厳守で学生時代から真面目な優等生だった。
反対に夫は一匹狼的な気難しい人で、社会のルールは守らず、専門家の意見にさえも耳を傾けず、時間に遅れていくのがfashionably late(遅れていくことがカッコいい)だと思っているような人。子供の頃は校長先生に呼ばれて怒られたり、サッカーが得意で、そこそこ人気者だった。ティーンの時は酒・煙草をするような不良だった。私達が出会った、夫が21歳の頃には、彼は既に酒豪だった。
そんな私達を表すような動画がある。
一時世間で話題になった、「鉄拳」の「振り子」である。
この動画を見て、私は泣いてしまった。
「真面目な子と不良が学生時代に出会い、バイクでデート。貧乏な中、結婚式もせずに入籍し、一人娘が生まれた。夫は仕事のストレスで酒と女に走り、早死にしたのだが、亡くなっても妻のそばで、妻のことをずっと見守っていた。」
このようなストーリーなのだが、これが私達夫婦の人生を表しているようで、身につまされたのだ。おそらく私の夫も、アルコールの様々な弊害によって早死にするであろう。
ただ唯一、夫は女には走っていない。
一時期、夫の会社の同僚のある女性のことを嬉しそうに語っていた時があるのだが、「妻にこんな話をするなんて、なんて子供なんだろう。」と、分かりやすい夫の態度を私は母親のような気持ちであきれて見ていた。
でもそれは浮気とは違う。
夫は、多少性格に難はあるものの、浮気をするような人間ではないのだ。
どこか純粋でお堅い一面があり、不貞行為に嫌悪感を示すような人なのだ。
そして「どこか純粋で堅い面がある」という点では、私と夫は見事に似ている。私達夫婦の性格が真逆と言えど、深くさぐっていくと、こういう共通点があったりしてなんとなく嬉しくなる。
その他に私達夫婦が似ているところと言えば、お互い頑固で感受性が強く繊細というところだろう。お互い傷つきやすく、二人でよく一緒に泣いた。
思えば、私は彼の感受性の強さと繊細さに惹かれて結婚したのだ。
出会った頃、私達は同じ大学の学生だった。私は日本で一度働いていたのだが、優雅で華やかで単調なOL生活に疑問を感じ始め、また、昔からずっと抱いていたアメリカに住みたいという思いと、やり残した学位取得のために渡米して来たのだ。そこで出会った今の夫。まだ二十代に入ったばかりだった彼は、とても傷つき、寂しそうだった。そんな彼を、私は優しく暖かく包み込んであげたかった。