犠牲になる時間

アルコール依存症の夫と一緒に暮らす中で、犠牲になる時間は２種類ある。
一つは泥酔時、そしてもう一つは離脱症状の時である。
どちらも夫の迷惑極まりない行為に、私達は苦しめられる。

酔っ払うと理不尽な絡まれ方をされ、それにまともに対応しているとこちらの精神がおかしくなって来る。アルコールの離脱症状が現れると、今度はすがるように助けを求めて来る。このギャップに対応するのが、アルコール依存症と一緒に暮らすものにとって非常に苦痛な時間である。

いつ泥酔したり、いつ離脱症状が現れるか分からないから、家に人も呼べない。
友人達を家に招いてお茶をしたり、パーティのホストをすることはあきらめている。そもそもアルコール依存症で苦しんでいる夫がいる中で、アルコールがつきもののパーティをやること自体考えられない。私はアルコールを全く飲まないので、アルコール抜きのパーティでも全然OKなのだが、ゲストにとっては、きっと物足りないパーティになることであろう。
そういうわけで、私は友人達を家に呼ばない。呼べない。

私のことはいいのだが、可哀想なのは娘だ。友達も気軽に家に呼べない。呼ぶなら、前もって夫の健康状態を知っておく必要がある。「もうすぐ飲むだろうか・・・？」そういうことを見極めて、やっと友達を呼べるのだ。

一時期娘が家でバイオリンを習っていたのだが、バイオリンの先生が来る日が近づくと、私はいつも不安で緊張した。どうか、夫が飲みませんように、と祈るしかなかった。離脱症状が現れた時には、バイオリンの先生にレッスンのお休みをお願いした。嘘の理由を伝えるのは胸が痛んだ。こうしてバイオリンの先生には、夫の病気のことをずっと隠し通した。