理不尽な病 ~アルコール依存症の夫と暮らして~

アメリカ人の夫との結婚生活15年。夫のアルコールの問題に悩まされて10年。アルコール依存症だと認識して約8年。健やかなる時も病める時も、死が二人を分かつまで、私はこうして地獄に付き合わなければならないのだろうか…? 遠い日本の親にも友達にも言えないこの苦しみを、どうかここで吐き出させて下さい。(2018年5月)

アルコールと私

愛と憎しみは紙一重と言えど、私のアルコールに対する憎しみが愛に変わることは決してない。いや、というより、もともと愛があったものが憎しみに変わったという、まさに結果として紙一重状態だったということなのかも知れない。若い頃の私は、確かにアルコールがある場所が好きだったのだ。

 

飲みたかったから飲んでいたのではなく、その場の雰囲気に馴染みたくて、「大人」であることを感じていたくて、背伸びをして周りに合わせて飲んでいたような気がする。

 

そんなに頻繁に行っていたわけではないが、たまにバーやクラブ、居酒屋などでアルコールを飲み、「あれ?私って、実はアルコールに弱いの?」と徐々に気付いてきたあの頃。一杯飲んだだけで心臓がドキドキし、顔が真っ赤になり、寒気で身体が震え、周りがワイワイ騒いでいる中で、早くも一人で酔っ払って寝てしまう。だからその一杯を、自分がつぶれないように、時間をかけてチビチビと飲む。そして大抵は全部飲めずに残してしまう。頑張って飲んだ末に、急性アルコール中毒になりそうな時もあった。それでも、アルコールがある場所の雰囲気が好きだったから、あの頃はそこに自分の身を置くだけで楽しかった。

 

好んで飲んだのは、カルアミルク、ホワイトルシアン、ピニャコラーダ、スクリュードライバー、ラムコーク、ウーロンハイ、杏露酒、レモンサワー、と、書いていて気付いたのだが、甘いカクテルが好きだったようだ。

 

カルアミルクは、自分でボトルを購入して家で飲んだりしていた。自分で作る方が、自分好みの美味しいカルアミルクができるからだ。レシピは、カルーアをほんの少しだけグラスの底に注ぎ、あとはタップリとミルクを投入。ちょっとアルコールの味がする、甘いコーヒー牛乳のような感覚で飲んでいた。

 

ビールが美味しいと普段は思わないのだが、それでも、人生で一度だけ、「ビール美味しい!」と感じた時があった。真夏の暑い夜、仕事の残業の帰りに、仲の良かった上司と、サラリーマン達がひしめく新橋のオヤジ的飲み屋でビールを飲んだあの瞬間、あれは本当に美味しかった!真夏に汗をかきながら、残業でクタクタになって疲れた体に、よく冷えたビールをカーッと流し込む。やっとみんなが言うビールの美味しさというものが分かった気がして、とても嬉しくなった。でもビールが美味しいと感じたのは、後にも先にも、あの時だけだった。

 

話は戻るが、あの頃の私は、「夫が好んで飲むウォッカ」をベースとしたカクテルを飲んでいた。いや、無理して頑張って飲んでいた、と言うべきであろうか。本来の私は、アルコールが飲めないのだ。

 

バーやクラブへ行っても、アルコールを飲みたくなかったからお水を注文し、最初から最後までずーっとお水だけを飲んでいた時もあった。そこまでして周りのアルコールの雰囲気に酔いたかった私は、まさか将来こんなにアルコールを憎み、アルコールに悩まされる日々を送ることになるとは思ってもみなかった。

 

今は夫のウォッカの匂いを嗅ぐだけで心がかき乱される。その匂いによって、私の脳までもがダメージを受けているように感じ、何とも言えない、目眩がしそうな程の不快な気持ちになる。

 

再飲酒の疑いがある時などは、とりあえず白黒ハッキリさせるために夫のドリンクを口に含んで確認してみるのだが、そんな疑いがある時はほぼ確実にウォッカが入っているので、飲み込むことなくすぐに吐き出す。

 

口に含んだだけで舌と脳にツーンと刺激が伝わるこのハードドラッグに、私の身体までもが蝕まれないよう、絶対に飲み込んだりはしない。でも、すぐによくうがいをしても、ウォッカの毒が私の舌から脳へと伝わり、頭がクラクラする。

 

私の中ではアルコール依存症 (Alcoholic / Alcohol Addiction)という言葉とウォッカの匂いがパブロフの犬のようにワンセットになっており、アルコール依存症だと言われる海外の俳優達の顔を見るだけで、こんなことを感じてしまうのは重症かも知れないが、彼らの身体から漂うハードリカー、特にウォッカの匂いが容易に想像できてしまい、彼らの顔を見るだけで心がざわついておぞましくなる。

 

日本人でもなく、白人の俳優に対してこのような気持ちになるのは、夫と同じ人種で重なりやすいからなのだろう。

 

特に、「〇賊」のお召し物がよく似合うあのハリウッド俳優は、見るからに長年の酒飲みの顔つきをしているので、画像からハードリカーの匂いが漂ってきそうで、おぞましくて、ゾワッとして、鳥肌が立ちそうになる。

 

ウォッカに限らず、もうアルコール全般の匂いが嫌だ。

アルコールを見るのも嫌だ。

人が飲んでいるところを見るのも嫌だ。

 

でも、矛盾しているかも知れないが、楽しく飲んでいる私の友人達に対しては、嫌だと言う気持ちは起きない。いくらアルコールが恐ろしいハードドラッグだと言えど、飲酒は合法なのだ。楽しく飲んでいるなら、それはそれでいいのです。ただ、私には私の事情があるので、皮肉ではなく、みんなは飲んで楽しんでネ!と思っています。

 

みんなが楽しいと私も楽しい。

ただ、私もみんなと一緒になってアルコールを飲むということは、もう、金輪際、ない。

 

 

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